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日本語ローカライゼーションプロセス · ブランドボイス · スタイルガイド

日本語ブランドボイスガイド:
チーム横断でSaaSローカライゼーションを統一するスタイル設計

日本語にローカライズするSaaS企業の多くは、英語のスタイルガイドをそのまま翻訳して使っています。しかし、それではうまくいきません。敬語レベル、表記方針、文末形、句読点の慣習といった、日本語の読み手が実際に気づく点を、英語のスタイルガイドでは決められないからです。ここが決まっていないと、翻訳者もツールもそれぞれの初期設定で判断し、プロダクトには信頼を損なう「文体のつぎはぎ」がたまっていきます。本記事では、日本語ブランドボイスガイドに何を盛り込み、どう作り上げるかを解説します。

Munehiro Hiraki
開 宗弘(ひらき むねひろ)
日本語ローカライゼーションQAスペシャリスト
2026年6月9日 読了時間 10分 日本語ローカライゼーションプロセス
クイックアンサー
日本語ブランドボイスガイドには、英語版にない何を盛り込むべきですか?
英語のガイドが扱わないものを明記する必要があります。敬語レベル(です・ますのスペクトラム上の位置)、用語ごとに表記を決めるカタカナ方針、日本語の句読点ルール、そして目標とする文の長さ——公的な目安としては50〜60字ほどです。
日本語のブランドコピーで「あなた」(you)をどう一貫させますか?
日本語には、「あなた」に当たる、どこでも使える中立な呼び方がありません。そのためガイドでは、プロダクトの画面や媒体ごとにユーザーをどう呼ぶかを決めておく必要があります。あなたとお客様をその場その場で使い分けるのではなく、二人称そのものを使わない言い方に書き換える、という方針を取ることもよくあります。
外来の技術用語はカタカナと日本語訳のどちらにすべきですか?
用語ごとに決めて、文書に残します。カタカナ方針を決めておけば、同じ機能がプロダクトの中で3通りに表記されるという、よくある失敗を防げます。日本語のユーザーには、これがぞんざいな作りに見えます。

TL;DR

日本語ブランドボイスガイドは、英語のスタイルガイドを訳したものではありません。英語のスタイルガイドが扱わない項目に正面から取り組む必要があります。具体的には、敬語レベルのスペクトラム上でブランドがどこに立つか(抽象的な形容詞ではなく具体的な文例で指定する)、表記方針(語ごとに漢字・カタカナ・ひらがなのどれにするか)、文末形のルール、日本語の句読点の慣習、文の長さの目標、禁止表現のリスト、受動態と能動態の方針、そしてプロダクト面ごとの二人称の扱いです。これが決まっていなければ、翻訳者が3人しかいないチームでも、同じブランドが書いたとは思えない文書ができあがります。

キーポイント

  • 英語のスタイルガイドは、日本語ブランドボイスガイドの代わりにはなりません。敬語レベル、表記の選択、文末形、日本語固有の句読点の慣習に触れていないからです。
  • 敬語レベルは形容詞ではなく実例で指定します。「温かいがプロフェッショナル」では日本語で何をすべきか決まりません。正しいレベルの具体的な文例こそが指針になります。
  • カタカナ方針では、主要な用語を一つずつリストに挙げます。「外来語はカタカナで」のような一律のルールでは、漢字表記が定着している語まで巻き込んでしまい、誤りが出ます。
  • 1文50〜60字ほどが目安です。日本語のB2Bブランドコピーでは、これより長いと従属節が積み重なり、述語が遠くなりすぎます。
  • 受動態が常に改まった言い方になるとは限りません。日本語では、丁寧にしたい場面では受動態を、はっきり伝えたい場面では能動態を使います。どの場面でどちらを使うかは、ガイドで決めておく必要があります。
  • 二人称には少なくとも4つの選択肢があります。あなた・お客様・御社・ユーザーのどれが正解かは、面と文脈で変わります。ガイドでは、面ごとにどれを使うかを対応表にしておく必要があります。

英語のガイドにはなく、日本語ブランドボイスガイドに盛り込むべきもの

英語のブランドボイスガイドが扱うのは、たいていトーン(フレンドリー、権威的、率直)、語彙(平易な言葉、専門用語を避ける)、文の構造(短く能動的に)、避けるべきもの(受動構文、無駄な言い回し)です。英語で書く翻訳者やライターにはこれで役に立ちますが、日本語ではこれだけでは足りません。日本語には英語にない文法上の特徴があり、ガイドで決めていてもいなくても、それがブランドの印象を左右するからです。

ブランドボイスガイドがないまま日本語のコピーに取りかかると、翻訳者は次の点を自分の初期設定で決めることになります。すべての文に付く敬語の文末、外来語をカタカナで書くか漢字に訳すか、会話や強調にどんな句読点を使うか、どこまで書いたら文を区切るか、そして「あなた」に当たる語をどうするか。どの判断も日本語の読み手には一つ残らず見えていて、ブランドの文体の印象を左右します。決めないまま放っておけば、ブランドボイスは翻訳者一人ひとりの初期設定任せになり、翻訳者・ツール・面ごとにばらばらのつぎはぎができあがります。

完成された日本語ブランドボイスガイドには、英語に対応物のないセクションが含まれます。

  • 敬語レベルの指定 — です・ますのスペクトラム上の位置。目標レベルの文例と、避けるべきレベルの文例を添える。
  • 表記方針 — 主要な用語ごとに漢字・カタカナ・ひらがなのどれにするか。一律ルールではなく用語リストで。
  • 文末形のルール — ブランドが敬体(です・ます)、常体(だ・である)、名詞化(〜こと、〜もの)のどれで文を終えるか。
  • 句読点の慣習 — 引用に「」を使うか""を使うか、。の扱い、区切りとしての・。
  • 文の長さの目標 — 主要なコピー面ごとの1文あたりの文字数。
  • 禁止表現のリスト — 技術的には正しいが、このブランドにはトーンが合わない言い回し。
  • 受動態と能動態の方針 — どちらをいつ使い、なぜそうするか。
  • 二人称のマップ — どの面でどの形を使うか。

敬語レベルの決定:です・ますのスペクトラムを指定する

日本語ブランドボイスでまず決めるべきで、しかも影響が最も大きいのが敬語レベル、つまりです・ますのスペクトラム上でブランドがどこに立つかです。英語でいうフォーマルさとは別物です。英語では語彙と文の組み立てで改まり具合を示しますが、日本語ではすべての文の文末で示します。そのため、敬語レベルをどう決めるかが、ブランドが出すあらゆるコピーに響きます。

B2B SaaSの実用的なスペクトラムは、超フォーマル(でございますの文末、「your company」に当たる貴社、誠にありがとうございますのような凝った定型句)から、親しみのあるプロフェッショナル(標準的なです・ます、ユーザーに対するお客様、能動構文)、そしてカジュアル(常体、フレンドリーなトーン、二人称代名詞)まで広がります。超フォーマルの端を選ぶべきSaaS企業はほとんどありません。プロダクトの中では堅苦しく、ユーザーとの間に距離ができます。カジュアルの端を選ぶべきB2B企業もほとんどありません。会社同士の取引を軽く見ているように受け取られます。

多くのB2B SaaSブランドに合うのは「親しみのあるプロフェッショナル」ですが、この言葉だけでは、実例がないと何をどう書けばよいか決まりません。ガイドには次のような例を入れておきます。

堅すぎる(超フォーマルな文体)
設定が完了いたしましたことをお知らせ申し上げます。
でございます/申し上げますの文体。法的通知やデパートのアナウンスのように読めます。SaaSプロダクトでは距離を生みます。
目標レベル(親しみのあるプロフェッショナル)
設定が完了しました。
標準的なです・ます。まっすぐで、わかりやすく、丁寧。Slack Japan、Notion Japan、Salesforce Japanのように、ローカライズがうまくいっているB2B SaaSの文体と同じです。
くだけすぎ(常体)
設定完了したよ。次のステップに進もう。
終助詞(よ、ね)の付いた常体。ブランドが顧客に話しかけているのではなく、対等な相手同士の会話に聞こえます。B2Bではほとんどの場面で不向きです。
目標レベル+CTA
設定が完了しました。次のステップに進みましょう。
終始、敬体。「ましょう」は命令ではなく、一緒に進もうという誘いとして働きます。くだけすぎずに温かみが出ます。

ガイドでは文末だけでなく、目標レベルにふさわしい語彙も指定しておきます。「親しみのあるプロフェッショナル」なら、お客様(あなたや貴殿ではなく)を使い、御社はフォーマルな営業文書に限ってプロダクトUIでは使わず、連絡まわりは連絡ではなくご連絡とする。ただし全体を通じて、改まった同義語ではなく平易な名詞(機能、設定、料金)を使う、といった具合です。

カタカナ方針:用語ごとの表記ルール

日本語のB2Bコピーでは、漢字・ひらがな・カタカナの3種類の表記が混ざり、外来の技術用語もそのどれで書かれることもあります。ブランドボイスガイドのカタカナ方針では、プロダクトで使う主要な用語ごとに、どの表記を正式とするかを決めなければなりません。「英語由来の語はすべてカタカナで」のような一律のルールでは誤りが出ます。外来語でも、日本のビジネスの場では漢字が標準になっている語があり、そこをカタカナにすると「外来語っぽくこなれていない」と受け取られるからです。

設定
漢字が標準——セッティングはくだけて外来語っぽく読まれる
ダッシュボード
カタカナが標準——定着した漢字訳がない
ワークフロー
SaaSではカタカナが好まれる——業務流れは不自然に響く

カタカナ方針は、ルールの形ではなく用語リストの形で作ります。リストには用語ごとに正式な表記と、その理由(漢字標準が存在する/漢字訳がない/ブランド名がカタカナを使う)を書きます。使ってはいけない表記も併せて載せます。たとえばダッシュボードを使うブランドなら、ダッシュボードのページを管理画面と呼んでも間違いではないにせよ、制御盤と管理画面は不可とはっきり書いておきます。この用語リストを切り出して管理するのが、ローカライゼーション用語集です。

用語 承認形 禁止される代替形 注記
Settings 設定 セッティング 漢字が標準。セッティングはくだけて読まれます。
Dashboard ダッシュボード 管理画面、制御盤 カタカナが標準。定着した漢字訳がありません。
Workflow ワークフロー 業務流れ、業務フロー カタカナが好まれます。業務フローはフォーマルな文書でのみ許容。
Automation 自動化 オートメーション 漢字が好まれます。オートメーションは技術的な文脈でのみ許容。
Integration 連携 インテグレーション 連携のほうがすっきりしており、B2Bで広く理解されます。
Notification 通知 ノーティフィケーション 漢字が標準。カタカナ形は日本語UIで使われることがありません。
Template テンプレート ひな形、書式 カタカナがSaaSの標準。ひな形は書類整理の語感で、SaaSには合いません。
Support サポート 支援、援助 カタカナが完全に定着しており、サポートページでの標準です。
Free trial 無料トライアル フリートライアル、無料試用 無料(漢字)+トライアル(カタカナ)が市場標準の表現です。
User ユーザー 利用者、使用者 プロダクトUIではユーザー、マーケティングやサポートのコピーではお客様。

日本語のブランドコピーにおける句読点ルール

日本語の句読点には欧文とは違う慣習があります。欧文のルールのまま句読点を打ったブランドコピーは、言葉が正しくても、ローカライズしきれていない文章に見えます。ブランドボイスガイドでは、句読点について次の点を決めておきます。

引用符:日本語では、通常の引用に「」(かぎ括弧)を、引用の中の引用や書名・製品名に『』(二重かぎ括弧)を使います。日本語の本文に欧文の二重引用符("")を使うと、組版が日本語らしく見えません。例外は、文字どおりに再現すべき技術文字列・変数名・UIラベルで、慣習に従って欧文の引用符やバッククォートで囲んでも構いません。

句点:日本語では文末に欧文のピリオドではなく。(U+3002)を打ちます。本来はフォントや入力メソッドの側で自然にそうなるはずですが、機械翻訳の出力では日本語の中に欧文ピリオドが紛れ込むことがあります。ガイドに明記し、QAのルールで拾えるようにしておきましょう。

区切りとしての中黒(・):日本語では、項目を文中で並べるときにビュレットやスラッシュではなく・(U+30FB)を使います。・はカタカナで書く外国の人名などにも使います(エアービーアンドビーではなくエアー・ビーアンドビー)。インラインのリストに・を使うかどうか、カタカナにした欧文の固有名詞をどう書くかを、ガイドで決めておきます。

括弧書き:日本語は欧文の半角括弧ではなく()(全角括弧、U+FF08/U+FF09)を使います。日本語の本文で半角の()を使うと文字幅が不揃いになり、日本語の組版では特に避けられます。

文の長さ:50〜60字の目安

日本語では、文の長さを英語よりも細かく決めておく意味があります。文字の幅がそろっているうえ、述語が文末に来るため、長さがそのまま読みやすさに響くからです。文が長いほど、読み手は、それまでの内容の意味を決める述語にたどり着くまで、多くの情報を覚えておかなければなりません。

目安として使いやすいのは、文化審議会「公用文作成の考え方」(令和4年)の解説が示す50〜60字ほどです。解説は長さを一概には決められないとしたうえで、この長さになったら読みにくくなっていないか意識するよう勧めています。短い文ばかりが続くと、ぶっきらぼうな電報のような文になります。UIのマイクロコピーならそれでよくても、説明やマーケティングのコピーには向きません。長くなると、従属節が重なって述語が後ろへ押しやられ、読み手のワーキングメモリに、ブランドのコピーとして心地よい範囲を超えた負担がかかります。

長すぎる(83文字、述語が埋もれる)
このプラットフォームは、チームの生産性を高めるために設計されたさまざまな機能を提供しており、直感的なインターフェイスで誰でも簡単に使い始めることができます。
1文に2つの内容が詰め込まれています。読み手は最初の節を覚えたまま、2つの従属句をくぐり抜けて、ようやく述語にたどり着きます。
目標の長さ(2文、42文字+28文字)
このプラットフォームは、チームの生産性を高める機能を揃えています。直感的な操作で、すぐに使い始められます。
同じ内容を2文に分けました。どちらの文も、読み手のワーキングメモリに負担がかかる前に述語が来ます。ローカライズがうまくいっている日本語SaaSのコピーと同じリズムです。

禁止表現のリスト

日本語ブランドボイスガイドには、必ず禁止表現のリストを入れます。日本語としては正しくても、そのブランドが使うと紋切り型・機械的・トーン違いに読める言い回しのリストです。SaaSのローカライゼーションでよく見る違反の出どころは2つあります。機械翻訳や経験の浅い翻訳者がつい頼る定型句と、英語の言い回しを直訳したせいで、文法は正しいのに人付き合いの感覚ではぎこちない日本語です。

日本語SaaSのコピーでいちばん使い古された定型句はご利用いただきありがとうございます(thank you for using our service)です。通知メールの冒頭にも、オンボーディング画面にも、サポートのメッセージにも、必ずと言っていいほど出てきます。誤りではありません。ただ、あまりに決まり文句になって誰の目にも留まらず、多用すると「このコミュニケーションの書き出しを誰も丁寧に考えなかった」と受け取られます。ガイドでは、たとえば次のように決められます。1回のやり取りにつき1回まで、フォーマルな取引メールの冒頭に限る、プロダクトUIと通知の件名では使わない。

表現 禁止する理由 推奨する代替
ご利用いただきありがとうございます(過剰使用) 定型句。多用すると、ブランドの肉声ではなくテンプレートのコピーに読まれます。 文脈に合った具体的な文頭で開始する
貴重なご意見をいただきました 超フォーマルな言い回しで、SaaSプロダクトのトーンには不適切です。 フィードバックをありがとうございます
〜させていただく(連続使用) 文法的には正しいものの、丁寧さの保険として多用されます。繰り返すと回りくどく聞こえます。 〜します / 〜いたします を直接使う
あなた(B2Bコンテキスト) 二人称代名詞がB2Bの文脈には砕けすぎています。プロダクトのコミュニケーションではなく広告コピーに読まれます。 お客様 / ユーザー(画面・媒体による)
是非ご確認ください 使い古された指示の言い回し。日本語SaaSのほぼすべてのCTAに登場します。 具体的なアクションを記述する(〜を確認できます)

受動態と能動態の方針

日本語では、英語にはない理由で受動態を使います。指示の当たりをやわらげるため、そして丁寧にするために、物事を受け手の側から描くのです。そのため日本語のブランドコピーでは、受動態にするか能動態にするかの判断が、英語よりも繊細になります。

多くのSaaSブランドにとっての実用的なルールはこうです。プロダクトUI(ボタンラベル、成功メッセージ、操作の説明文)と、ブランドが自信と明確さを示したいマーケティングコピーでは能動態を使う。ブランドがユーザーのデータやアカウントに起きた過程を報告している場面では受動態を使う(システムがデータを処理しました——the system processed the data——ではなく、データが処理されました——the data was processed——とする)。

UIで受動態(動作主が不明、事務的に感じる)
ファイルのアップロードが完了されました。
成功メッセージを受動形にすると、よそよそしくなります。そもそもアップロードを完了したのは誰なのか。ユーザーが知りたいのは、自分の操作がうまくいったかどうかです。
UIで能動態(明確な確認)
ファイルをアップロードしました。
能動形。わかりやすく、温かく、まっすぐ。ユーザーの操作が済んだことをブランドが伝えています。ローカライズがうまくいっている日本語SaaSプロダクトと同じ文体です。

例外はエラーメッセージと警告です。ここではむしろ受動的な言い方が合うことが多くあります。ユーザーのミスをにおわせずに、何が起きたかだけを伝えられるからです。ファイルを読み込めませんでした(the file could not be loaded)のほうが、システムがファイルを読み込めませんでした(the system could not load the file)よりも中立に聞こえます。

人称:プロダクト面をまたいで「あなた」をどう扱うか

日本語は英語に比べて、二人称の代名詞をずっと使いません。よく書けた日本語のコピーは、文脈に任せて主語ごと省くことがよくあります。それでも相手を指す必要があるとき、あなた・お客様・御社・ユーザーのどれを使うかは好みの問題ではなく文体の判断です。どれを選ぶかで、相手との関係の見え方が変わります。

ブランドボイスガイドは、二人称の扱いを面の種類に対応づけるべきです。

  • プロダクトUI(アプリの画面):可能なら二人称代名詞を省く。避けられない場合は、ユーザー、または個別化が可能ならその人の名前。B2BのプロダクトUIではあなたを使わない。
  • マーケティング・オンボーディングのコピー:お客様——敬意があり、見込み客や新規顧客への呼びかけにふさわしい。砕けずに温かい。
  • サポート・取引メール:直接の呼びかけにはお客様。文脈上、顧客の会社を指すときは御社(御社のアカウントについて——regarding your company's account)。
  • フォーマルな営業文書・契約書:顧客の会社には御社。書面(メールではない)のフォーマルな文書では貴社。この2つは互換ではありません——御社は口頭とメール、貴社は書面のフォーマルな場面に限られます。
日本語ブランドボイスガイドに書くのは、ブランドがどう聞こえるかではありません。日本語では、文の語尾ひとつ、語の表記ひとつ、相手の呼び方ひとつが、決めていてもいなくても相手に何かを伝えてしまいます。ガイドに書くのは、そうした文法上の判断をブランドとしてどう下すかです。

ガイドを作る:セクション、フォーマット、レビュープロセス

日本語ブランドボイスガイドは、棚に置いておく資料ではなく、日々使う文書にします。日々使うとは、読んで覚えられるほど短く、段落ではなく表と例でまとめ、変更を追えるようにバージョン管理されている、ということです。構成は次をおすすめします。

  1. 日本語のブランドボイス・ステートメント — ブランドの日本語アイデンティティを、目標とする文体で書いた1〜2文。すべての翻訳者が着手前に読むべき、感覚合わせの一文です。
  2. 敬語レベルの指定 — スペクトラム上の位置。目標レベルの例3つと、範囲外の例2つ(堅すぎるもの1つ、砕けすぎるもの1つ)を添える。
  3. 承認用語リスト — カタカナ/漢字の方針を表で表現する。用語、承認形、禁止される代替形、注記。
  4. 句読点ルール — 引用符、文末の文字、インラインの区切り、括弧のスタイル。
  5. 文の長さの目標 — 主要なコピー面(UI、マーケティング、ヘルプセンター)ごとの文字数の範囲。
  6. 禁止表現 — 言い回し、禁止する理由、推奨する代替を並べた表。
  7. 面ごとのボイスと文体 — プロダクト面を、敬語レベル・二人称の形・文末の慣習に対応づけた表。
  8. 例つきのDo's and Don'ts — 各レベルで、実際のプロダクトコピーから取った5〜10個の実例。

レビューには、日本語が流暢なだけの人ではなく、プロのライターか上級のローカライゼーションレビュアーである日本語ネイティブを、少なくとも1名加えてください。ガイドが扱うのは正誤ではなく文体の判断で、その見極めには訓練を積んだ編集者の目が要るからです。見直しの時期は、大きなプロダクトアップデートのたびと、既存のルールでは決めきれない判断が出たマーケティングキャンペーンの後です。

日本語ブランドボイスガイドを作成中ですか?

ブランドボイス監査では、既存の日本語コピーを面をまたいでレビューし、文体の不整合を洗い出し、いまのスタイル文書に欠けている項目のドラフト仕様を作成します。ほとんどのSaaSプロダクトは、次の翻訳ラウンドの前に、少なくとも敬語レベルの指定と用語リストが必要です。

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日本語ブランドボイスガイド チェックリスト

📝

コア仕様(必須)

  • 敬語レベル:スペクトラム上の位置に名前を付け、目標レベルの文例3つと範囲外の文例2つで示している。
  • 用語リスト:主要な用語ごとに承認形(漢字/カタカナ)と禁止される代替形を記載。SaaSプロダクトなら最低20語。
  • 文末形のルール:ブランドがどの文末(です・ます、常体、名詞化)を、どの面で使うか。
  • 句読点の慣習:引用符のスタイル(「」と"")、文末の文字、中黒の使い方、括弧のスタイル。
  • 文の長さの目標:面(UI、マーケティング、ヘルプセンター)ごとの文字数の範囲。
🚫

回避とボイスのルール(必須)

  • 禁止表現:表現、禁止する理由、推奨する代替を並べた表。最低5項目。
  • 受動態と能動態の方針:面の種類(UI/マーケティング/サポート)ごとに、どちらをいつ使うか。
  • 二人称のマップ:どの面でどの形(あなた/お客様/御社/ユーザー)を使うか。書面と口頭での貴社/御社の使い分けを文書化。
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生きた文書の運用(ベストプラクティス)

  • 日本語のブランドボイス・ステートメント:目標とする文体で書いた1〜2文。すべての翻訳者の感覚合わせの一文として使う。
  • Do's and Don'tsの実例:実際のプロダクトコピーからの、修正前後のペアを5つ以上。
  • バージョン履歴:ルール変更の日付つき変更履歴。翻訳者が、いつルールが追加・変更されたかを確認できるように。
  • レビューサイクル:主要なプロダクトアップデートのたび、そして最低でも年1回のネイティブレビューを予定に組み込む。

日本側の担当者向け:表記ルールの根拠を公的な基準で押さえる

海外本社のボイスガイドに日本語の節を足すとき、日本側の担当者がよく受ける質問は「なぜこの書き方なのか」です。本社の担当者からも、社内の別部署からも聞かれます。好みで決めたルールは、担当者が替わると揺り戻されます。そこで、表記の判断のうち公的な基準で説明できるものは、根拠を添えて書いておくと運用が安定します。

参照しやすいのは、文化審議会が2022年(令和4年)1月7日に建議した「公用文作成の考え方」と、その解説です。国の府省庁の文書を主な対象としたもので、民間企業に従う義務はありません。それでも、外来語や数字の書き方について「どこかに基準はあるのか」と聞かれたときに示せる、公開された一次資料です。外来語の書き方の土台になっているのは、1991年(平成3年)の内閣告示第2号「外来語の表記」です。

論点 「公用文作成の考え方」解説の記述(要旨) ブランドガイドでの決め方の例
語末の長音(-er、-or、-ar、-ty など) 長音符号を付けて書くのが原則。例としてコンピューター、エレベーター、カテゴリーを挙げる 「ユーザー」「サーバー」のように付けるか、IT製品で長く使われてきた「ユーザ」「サーバ」に揃えるかを決め、用語リストに両方の形を載せる
「ヴ」の使用 原則として「バビブベボ」を用い、「ヴ」をむやみに使うことは慎む 一般の語は「バ」行で書く。製品名・社名など固有名詞の公式表記に「ヴ」があるときだけ例外として残す
読点 句点は「。」、読点は「、」が原則。横書きでは「,」も使えるが、混在させない。句点にピリオドは用いない SaaSのUIとマーケティングでは「、」「。」に統一する。英文を訳したときにピリオドやコンマが残っていないかをレビュー項目に入れる
数字の全角・半角 横書きでは算用数字を使う。全角・半角に定めはないが文書内で統一する。データや金額は半角にする(全角は数値として認識されない場合がある) 料金表・プラン比較・請求画面の数字は半角に固定する。桁区切りのコンマの有無も決めておく
一文の長さ 長さは一概に決められないが、50〜60字ほどになったら読みにくくなっていないか意識するとよい。SNSでの広報はより短くすべきとの指摘もある 60字を超えた文をレビューで拾う。SNS用コピーは別に短い上限を置く

語末の長音は、日本側で揉めやすい論点です。IT製品の画面では「コンピュータ」「プリンタ」のように長音を付けない書き方が長く使われてきました。2008年にはマイクロソフトが、内閣告示に沿って語末に長音を付ける方針へ切り替えると発表したと報じられています。どちらが正しいという話ではなく、自社がどちらに揃えるかを一度決め、既存のUI文字列とヘルプ記事を同じ形に直すかどうかまで決めておくことが要点です。

日本側の担当者がこの表を社内で使うときの進め方は、次のとおりです。

  1. 既存の日本語文字列から揺れを拾う — 「ユーザ/ユーザー」「サーバ/サーバー」「、/,」など、上の5つの論点について、UI文字列ファイルとヘルプ記事で両方の形が出ていないか検索する。
  2. 論点ごとに採用する形を1つ決める — 公的な基準と違う形を選ぶ場合も、選んだ理由(既存の画面との互換、業界の慣習など)を1行で書き添える。
  3. 本社向けに英語の注記を付ける — 日本語を読まない本社の担当者やTMS(翻訳管理システム)の管理者が、ルールの意図を追えるようにする。
  4. 用語リストとレビュー項目に反映する — 決めた形を承認形、もう一方を禁止される代替形として登録し、翻訳者のチェック項目に加える。

なお、公用文の基準は民間の文書を縛るものではありません。広告表現や契約文言など、法令が関わる判断は、表記の基準とは別に専門家へ確認してください。

よくある質問

日本語ブランドボイスガイドには、英語のスタイルガイドにない何を盛り込む必要がありますか?

日本語ブランドボイスガイドには、敬語レベル(です・ますのスペクトラム上でブランドがどの位置を取るか)、表記方針(ある語を漢字・カタカナ・ひらがなのどれで書くかのルール)、文末形のルール(常体で終えるか、敬体で終えるか、名詞化で終えるか)、そして日本語の組版に固有の句読点ルール(。とピリオド、「」と""、区切りとしての・)を明記する必要があります。英語のスタイルガイドはこれらをまったく扱いません。英語には文法的な敬語レベルも、表記の選択も、文末形のシステムも存在しないからです。

日本語スタイルガイドで敬語レベルを正確に指定するにはどうすればよいですか?

レベルを抽象的に説明する(丁寧だが堅すぎない、など)のではなく、具体的な文末の例で指定します。便利な近道は、スペクトラム上の位置に名前を付けることです。たとえば「親しみのあるプロフェッショナル」なら、です・ます調の文末、でございますは使わない、貴社は使わない、あなたではなくお客様、能動構文を優先、といった具合です。正しいレベルの例文を3〜4つ、堅すぎる例とくだけすぎる例をそれぞれ3〜4つ含めると、翻訳者は抽象的な形容詞ではなく実例に照らして感覚を合わせられます。

外来の技術用語はカタカナと日本語訳のどちらを使うべきですか?

用語と読み手によって答えは変わります。技術語彙に慣れたB2B SaaSの読み手には、無理な日本語訳(制御盤、作業流れ、自動化)よりも、カタカナ語(ダッシュボード、ワークフロー、オートメーション)が好まれます。普段使っているほかのSaaSプロダクトで、ユーザーが目にしているのがそのカタカナの形だからです。スタイルガイドでは、主要な用語を一つずつ明示します。承認するカタカナ形を示し、無理な漢字訳を不可とし、日本語訳のほうが業界標準である用語(セッティングではなく設定)には注記を添えます。

日本語のブランドコピーで「あなた」(you)はどう扱えばよいですか?

日本語のブランドコピーは、英語よりもはるかに二人称の代名詞を避けます。あなた(中立)、お客様(敬意を込めた呼びかけ)、御社(フォーマルな企業呼称)、ユーザー(利用者)のどれを選ぶかは、文脈と面によって決まります。マーケティングやオンボーディングではお客様、プロダクトUIではユーザーまたは本人の名前、フォーマルな営業・契約文書では御社、という具合です。最も重要なルールは、フォーマルなB2Bコピーであなたを避けることです。文法的には正しくても社会的にはくだけすぎており、初対面の相手をいきなり下の名前で呼ぶのに近い印象を与えます。スタイルガイドは、各面とそれにふさわしい二人称の扱いを指定すべきです。

日本語のブランドコピーに推奨される文の長さは?

文化審議会「公用文作成の考え方」(令和4年)の解説は、一文の長さは一概に決められないとしたうえで、50〜60字ほどになったら読みにくくなっていないか意識するよう勧めています。短い文ばかりが続くとぶつ切りの印象になり、長くなると従属節が積み重なって述語が遠くなります。この目安はルールではなくガイドラインです——内容が本当に必要とする場合は、長い文も正解です。スタイルガイドはこの目標を明文化し、基準に合う文と合わない文の例を載せて、翻訳者やレビュアーが毎回文字数を数えなくても感覚を合わせられるようにすべきです。

日本語ブランドボイス

あなたの日本語コピーは、一つのブランドの声に聞こえますか?

翻訳者やツール、面によって文体がばらつくのは、日本語SaaSローカライゼーションで最もよく見る品質問題です。同時に、最も防ぎやすい問題でもあります。ブランドボイス監査で食い違いを洗い出し、チームに必要な仕様をまとめます。