- 100で請求したのに79.58しか入金されません。何が起きたのですか
- 支払の段階で源泉徴収されています。日本国内で外国法人などに対し源泉徴収の対象となる国内源泉所得を支払う者は、その支払の際に税を差し引いて納付する義務を負います。義務を負っているのは顧客であって、こちらではありません。好意で取りやめられる類のものでもありません。国税庁は所得の種類ごとの税率を公表しており、工業所有権、著作権等の使用料等については20.42%と示されています。見出しの数字は、その税率を100の請求に当てはめただけのものです。通貨は関係ありません。
- 取り戻せますか。次からは止められますか
- どちらも可能性はありますが、道筋は別です。これからの分については、租税条約による軽減・免除を届出書で請求します。使用料なら様式3で、非居住者等が支払者を経由して、支払者の納税地の所轄税務署長へ、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに提出します。過去の分については、届出書を出していなかったために国内法の税率で源泉徴収された差額を、同じ経路で還付請求する道(様式11)があります。ただしどちらも、その前提となる問いに答えが要ります。そもそも受け取っている対価が「使用料」に当たるのか、という問いです。これは契約前に、日本の税理士と決着させる論点です。
TL;DR
日本に拠点も社員もないので、日本の税金は参入計画に入っていなかった。そこへ、最初の着金が足りないという事実が届きます。起きているのは源泉徴収です。国内源泉所得を外国法人に支払う日本側には、支払の際に源泉徴収をする義務があり、国税庁が公表している工業所有権、著作権等の使用料等の税率は20.42%です。ただし難しいのは税率ではありません。自社のサブスクリプション収入がその区分に入るのか、それとも条約上ちがう扱いになりうる事業所得なのかは、公開されている一次情報だけでは一律に決まらないという点です。契約書と自社の事実関係、そして自国と日本との租税条約によって変わります。だからこれは、銀行の明細で気づく問いではなく、契約前に日本の税理士と、そして顧客の経理部門と、決着させておく問いです。そして軽減・免除が使える場合、それを請求する届出書は、支払者を経由して最初の支払の前日までに出す必要があります。契約締結の数か月後ではなく、数日後です。
Key Takeaways
- 差額は税であって、支払トラブルではない。源泉徴収の義務は、支払の時点で日本側の支払者に生じる。担当者にエスカレーションしても動かせない。
- 20.42%は公表されている使用料等の税率。国税庁は国内源泉所得の種類ごとに税率を示しており、工業所有権、著作権等の使用料等は20.42%。
- 「使用料に当たるのか」が勝負どころで、しかも公開情報では決まらない。「たぶん大丈夫」で契約に進まない。書面で見解を取り、顧客の経理と認識を合わせる。
- 条約の適用は日単位の期限で動く。届出書は支払者を経由して、最初の支払を受ける日の前日までに支払者の納税地の所轄税務署長へ。間に合わなければ国内法の税率になる。
- 間に合わなくても回復はできるが、代償は信用のほう。還付請求という道はある。ただしそれも顧客を経由する=すでに一度手間をかけた部署に、二度目を頼むことになる。
金額は合っていた。着金だけが合っていなかった
日本の案件はきれいに決まりました。契約書は取り交わし済み、サービスは稼働、請求書は先方の経理チェックを一度で通過。本社の財務は、日付を名指しできる状態で入金を待っています。
入金は予定どおり届きます。金額だけが2割ほど足りません。
最初に出る仮説は送金手数料で、これは外れます。次に出るのは「合意していない値引きをされたのでは」で、これも外れます。起きているのは、顧客が支払の時点で日本の税を源泉徴収し、税務署に納付したということです。請求書の内容は争われていません。総額もそのまま受け入れられています。ただ、その一部がこちらの口座ではないところへ行った、というだけです。
最初の1時間で理解しておくと役に立つのは、これが交渉ごとではないという点です。顧客が選んでやったことではありません。
ここまでの状況は、日本市場参入の支援で繰り返し見てきたパターンを合成したもので、特定の顧客のことではありません。タイトルの金額は、公表されている税率を100の請求に当てはめた計算例であって、実在の請求書ではありません。通貨が何であっても仕組みは変わりません。
顧客が満額を払えない理由
国税庁の記述には、あまり解釈の余地がありません。日本国内において非居住者または外国法人に対し、源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際に源泉徴収をして納付する義務を負います。
これを顧客側の机から読んでみます。支払処理をしている人は、気前よくするかどうかを判断しているのではありません。自分たちに生じた義務を果たしているだけで、間違えたときに問われるのはこちらではなく先方です。だから「いったん満額で払ってもらって、税はこちらで処理します」という依頼はどこにも着地しませんし、関係を傷つけることすらあります。先方には、下調べをしていないベンダーのために責任を引き受けてくれ、という依頼に読めるからです。
事前に誰も教えてくれなかった理由も同じところにあります。日本の経理部門の内側から見れば、海外企業への支払に源泉徴収がかかるのは当たり前の話で、わざわざ知らせるニュースではありません。それがニュースになるのは、別のタイムゾーンで銀行明細を見ている側だけです。
20.42%はどこから来ているのか
この数字の背後には3つの要素があり、参入チームはたいていこれを1つに潰してしまいます。分けて見る価値があります。
1つ目は、範囲。外国法人が日本で課税されるのは日本に源泉のある所得についてで、国税庁は国内源泉所得に何が含まれるかを区分の一覧として示しています。この一覧に載っているものだけが、そもそも土俵に上がります。
2つ目は、区分。その区分の1つが使用料です。法務省の公式英訳で所得税法第161条第1項を見ると、該当する号は国内において業務を行う者から受ける、その業務に係る使用料または対価を対象としています。工業所有権や著作権等の使用料、そしてそれらの譲渡による対価です。
3つ目は、税率。国税庁は所得の種類ごとに源泉徴収の税率を公表しており、工業所有権、著作権等の使用料等について示されている数字は20.42%です。100の請求に当てはめれば79.58が届きます。見出しの正体はそれだけです。
日本に拠点がないことは、免除の理由にならない
参入チームが持ちがちな直感は、「税金の話は法人を作るか人を雇ってから始まる」というものです。そうではありません。恒久的施設(PE)の有無が変えるのは課税の仕組みであって、納税義務の有無ではありません。国税庁はその切り分けを明確に書いています。恒久的施設に帰せられる国内源泉所得は原則として源泉徴収のうえ総合課税の対象となり、帰せられないものは原則として源泉分離課税の対象になります。つまり日本に拠点を持たない会社にとって、源泉徴収は手続きの入口ではありません。それが手続きのすべてです。
同じページはもう1つの理由からも読む価値があります。恒久的施設に当たるかどうかは、形式ではなく機能的な側面を重視して判定されると書かれています。オフィスを借りていないから該当しないと確信している会社が、思っているほど確実ではない、ということは起こります。これもスライドではなく、専門家に確認する論点です。
公開情報が答えてくれない、たった1つの問い
ここからが全体を決める部分で、そしてほぼ必ず飛ばされる部分です。
使用料の税率は公表されています。国内源泉所得の区分も公表されています。公表されていないのは――どこを指さしても出てこないのは――日本の顧客が毎月払っているプラットフォーム利用料が、そもそも使用料に当たるのか、それとも条約上まったくちがう扱いになりうる事業所得なのか、という判断です。
この区分は、契約の外側からは見えない事実で決まります。顧客が実際に取得しているのは、著作物に関する権利なのか、ネットワーク越しに提供される役務なのか。ソフトウェアが先方側にインストールされたり、通常の意味で許諾されたりしているのか。契約書自身は、何を許諾していると書いているのか。そして日本と自国との条約は、それぞれの区分について何と定めているのか。区分がちがえば、行き着く先もまったく変わります。
ここで答えを断言するつもりはありません。契約書を読まずに答えをくれる相手がいたら、そちらを疑うほうが健全です。代わりに申し上げられるのは、未決のまま進んだときに何が起きるか、です。いずれ見解を持つ当事者が2つ現れます。こちらの税理士と、顧客の経理部門です。両者の見解が割れた場合、実際の送金を決めるのは顧客側の見解です。義務とリスクを負っているのが顧客だからです。そしてこちらは、すでに税務署へ納付を済ませ、こちらの言い分だけで巻き戻す手段を持たない相手と、事後に議論することになります。
だからこれは請求後のチェックリストではなく、契約前のチェックリストに載る項目です。日本の税理士と見解を固め、書面にして、最初の請求より前に顧客の経理部門へ出す。指示としてではなく、質問として出すのが要点です。当社はこの扱いだと理解していますが、御社の認識も同じでしょうか。この時点で見解が割れても、コストはメール1通です。あとで割れると、着金の2割と、能力を問う会話がコストになります。
この記事は制度の一般的な整理であり、税務・会計の個別の助言ではありません。自社の所得がどう区分されるか、どの条約が適用されるか、結果としてどの税率になるか、いつどう提出するかは、行動に移す前に日本の税理士または所轄の税務署にご確認ください。
様式3と、日単位で迫る期限
日本は多くの国と租税条約を結んでおり、それが適用される場合には、国内法による源泉徴収が軽減または免除されることがあります。ただし自動では適用されません。届出書で請求する必要があり、その届出書には、外資系ベンダーが初回にほぼ必ず驚く「経路」と「期限」があります。
国税庁は、届出書の書式が支払内容によって異なること――配当は様式1、利子は様式2、そして使用料は様式3であること――を示したうえで、手続きをこう説明しています。非居住者等は届出書を支払者ごとに作成し、支払者を経由して、支払者の納税地の所轄税務署長に、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに提出する。そして同じページは、その日までに提出がない場合にどうなるかもはっきり書いています。支払者は条約の限度税率ではなく、国内法に規定する税率で源泉徴収を行います。
使用料の届出の手続案内――A3-5として案内されているページ――も同じ期限を繰り返したうえで、書面の扱いを補足しています。紙で作成する場合、届出書は正副2部を作って使用料の支払者に提出し、支払者が正本をその所轄税務署長へ持参または送付します。適用を受ける条約の規定が特典条項の対象である場合には特典条項に関する付表(様式17)の添付が必要になり、相手国の権限ある当局が発行した居住者証明書も関わってきます。提出後に記載事項が変わったときも、同じ経路をもう一度通ります。
ここから導かれることが3つあり、どれも書式そのものより重要です。
期限は期末ではなく、契約締結のすぐ隣にある。新規契約の最初の支払は、たいてい数週間先です。税務書類を四半期単位のタスクとして扱っているプロセスでは、確実に間に合いません。
顧客が、こちらの税務手続きの内側に入る。届出書は物理的に先方を経由します。つまり日本の経理部門に対して、「海外のベンダーから書類が届き、それを自社の税務署へ提出してもらうことになる」と事前に伝えておく必要があります。早めに伝えれば定型の作業です。支払処理の前日に持ち込めば、そうではありません。
条約が実際に何をしてくれるかは、国ごとに違う。限度税率は条約ごとに異なり、同じ条約の中でも所得の区分によって定めが異なることがあります。他の市場にいる同僚の経験をそのまま当てはめないでください。確認するのは、日本と自国との条約です。財務省が租税条約の一覧を公表しているので、該当する条約を専門家と読むのが唯一確実な方法になります。
もう期限を過ぎてしまっている場合
この記事を読んでいる方の多くは、すでに事が起きたあとだと思います。ですので、扉が閉まったわけではないことは先に書いておきます。
国税庁は、まさにこの状況のための還付の道筋を説明しています。非居住者等が支払を受ける所得が租税条約の規定の適用対象であるにもかかわらず、届出書を提出しなかったことに基因して国内法の税率で源泉徴収された場合、非居住者等は「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を支払者を通じて支払者の納税地の所轄税務署長へ提出し、軽減または免除を受けた場合の税額との差額について還付を請求できます。この還付請求書には、届出書と、支払内容が確認できる書類の写し等を添付します。
実務的な注意が2つ。還付金は原則として請求者である非居住者等に還付され、代理人が受領を希望する場合には委任状とその翻訳文の添付が必要になります。そしてこのページは、経路と添付書類は示しているものの、提出期限には触れていません。期限がないと決めつける理由にはならないので、自社のケースに何が当てはまるかは所轄の税務署か税理士に確認してください。
もう1つ、届出の道にはなくて還付の道にはあるコストにも触れておきます。還付請求は、顧客をもう一度経由します。こちらのために税を納付してくれた経理部門に、今度はそれを取り戻す書類を扱ってくださいと頼むわけです。やってはくれます。そして、やったことも憶えています。その記憶は更新のときに席に着いています。
契約前に決着させておくこと
どれも日本法人は不要で、本社の許可を待つ必要もありません。
- 区分の判断を、署名の前に、書面で取る。受け取る対価は使用料として扱われるのか、それ以外なのか。実際の契約書を読んだ日本の税理士だけが、頼れる情報源です。
- 自国と日本との条約を読む。財務省の一覧から入り、該当する条約が対象の区分に何をもたらすのかを、要約ではなく専門家と確認する。
- 届出書を「署名時のチェックリスト」に入れる。期限は最初の支払を受ける日の前日。税務書類を四半期でまとめて処理するプロセスなら、プロセスを変えるか、還付の道が既定になることを受け入れる。
- 顧客の経理に早めに伝える。海外ベンダーからの条約の届出を扱った経験があるかを聞く。その答えで、どれだけ手を添える必要があるかが分かります。聞くこと自体のコストはゼロです。
- 価格が源泉徴収前か後かを契約で決めておく。1文あれば、不意打ちが「双方が織り込んだ数字」に変わります。
- 最初の着金の前に本社の財務へ伝える。請求額がそのまま入る前提の予測は、決まった方向に外れます。事前に説明するほうが、未達の説明として話すよりはるかに楽です。
この下にあるパターンは、日本で署名のあとに起きることすべてに共通しています。商談は事業部門とまとまり、その結果を処理するのは、こちらと会ったこともなく、初めて取引するベンダーのために何かを曲げる理由もない部署です。経理から請求書が戻ってくる話とも、購買手続きと稟議の紙の流れとも、合意のあとに届くセキュリティチェックシートとも、同じ形をしています。署名は終点ではなく、引き渡しです。
Japan Readiness Check では、署名のあとに登場する部署と同じ読み方で、日本語で出している資料を追っていきます。請求額のうち実際にいくら手元に届くのかを決めている書類も、その対象です。
よくあるご質問
100で請求したのに79.58しか入金されません。顧客が少なく払ったのですか
まずそうではありません。日本国内において非居住者または外国法人に対し、源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際に源泉徴収をして納付する義務があります。国税庁は所得の種類ごとの税率を公表しており、工業所有権、著作権等の使用料等については20.42%と示されています。差額は顧客が値引きしたものではなく、顧客が源泉徴収して納付した税額です。いくらを、どの区分で源泉徴収したのかを書面で確認し、その回答を持って日本の税理士に相談してください。この記事は制度の一般的な整理であり、税務の個別助言ではありません。
自社のSaaS利用料は、源泉徴収の対象となる「使用料」に当たりますか
それこそが契約前に決着させておくべき論点で、公開情報だけで一律に決まるものではありません。国税庁のページは、使用料に適用される税率と、国内源泉所得に当たる所得の区分を示しています。個々の契約がどの区分に入るかまでは示していません。答えを左右するのは、顧客が実際に何を取得しているのか、契約書がそれをどう書いているのか、著作物に関する権利の許諾があるのか、そして適用される租税条約がどう定めているのかといった事実です。見解を持つ当事者は2つ――こちらの税理士と、顧客の経理部門です。そして実際の送金を決めるのは顧客側の見解になります。源泉徴収義務を負っているのは顧客だからです。日本の税理士に書面で見解を出してもらい、最初の請求より前に顧客の経理と突き合わせてください。
租税条約による軽減・免除は、どう請求していつまでに出すのですか
届出書を提出して請求します。国税庁は、届出書の書式が支払内容によって異なり、配当は様式1、利子は様式2、使用料は様式3であることを示したうえで、非居住者等は支払者ごとに届出書を作成し、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して支払者の納税地の所轄税務署長に提出する、と説明しています。その日までに提出されていない場合、支払者は租税条約の限度税率ではなく国内法の税率で源泉徴収を行います。外資系企業が見落としがちなのはこの期限です。期末ではなく契約締結の数日後に来ますし、書類が支払者を経由する以上、顧客側の協力も要ります。
すでに期限を過ぎてしまいました。差額はもう戻りませんか
必ずしもそうではありません。国税庁は還付の道筋を説明しています。租税条約の規定の適用対象となる所得であるにもかかわらず、届出書を提出しなかったことに基因して国内法の税率で源泉徴収された場合、非居住者等は「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を、支払者を通じて支払者の納税地の所轄税務署長へ提出することで、軽減または免除を受けた場合の税額との差額について還付を請求できます。届出書と支払内容が確認できる書類の写し等を添付します。実務上の注意が2つあります。この請求も支払者を経由するので、顧客の経理に二度目のお願いをすることになります。そしてこのページには提出期限の記載がありません。期限がないと決めつけず、所轄の税務署か税理士にご確認ください。
この記事は税務の助言ですか。事実はどこから取っていますか
税務の助言ではありません。日本進出を進める方に向けて、源泉徴収の仕組みと租税条約の届出の流れを一般的に整理したものです。自社の所得がどう区分されるか、どの条約が適用されるか、結果としてどの税率になるか、いつどう提出するかといった判断は、実行の前に日本の税理士または所轄の税務署にご確認ください。数字と手続きは、国税庁の非居住者等に対する源泉徴収・租税条約に関する届出書・還付請求のページ、法務省による所得税法の公式英訳、財務省の租税条約一覧から取っており、いずれも本文中にリンクしています。タイトルの金額は計算例であって実在の請求書ではなく、冒頭の場面も特定の顧客ではなくパターンの合成です。