Quick Answers
ロゴの壁が、日本の大企業に効かないのはなぜですか
聞かれていない質問に答えているからです。欧米のロゴは「実在する、顧客のいる会社だ」ことを示します。それ自体には価値がありますが、そこで止まっているわけではありません。止めているのは、社内の申請に御社の名前を書く人が「これは普通の判断です」と示せる材料を持っていないことです。いちばん効くのは前例で、同じ業種・同程度の規模・日本国内で動いている会社です。並んでいるロゴは、その確認担当者と監督官庁も従業員規模も社内システムも共有していないので、前例としては使えません。
では日本のロゴを1社もらえばいい、ということですか
その1社が、たいてい許可を出せません。顧客名の公開は広報部門の所管で、法務の確認も入ります。どちらも購入の場にはいませんでした。さらに日本には業種と従業員規模だけを書いた匿名事例という定着した形があるため、断っても顧客側は何も失いません。したがって1年目は、名前のいらない材料で組み立てることになります。日本の形式で書いた匿名事例、実際に出してよい数字、そして自分たちが依頼していない第三者の言及です。

TL;DR

ロゴの壁は本物で、社名も知られています。それでも社内の議論は動きません。日本の大企業で効くのはもっと狭い条件で、同じ業種、同じくらいの規模、日本国内で、すでに使っている会社があるか、の3つです。海外のロゴは「実在する会社だ」ことを示します。国内の事例は「これを選ぶのは普通の判断だ」ことを示します。後者だけが稟議で使えます。やっかいなのは、最初の日本の顧客がまず社名の公開を許可しないことです。不満があるからではなく、顧客名の公開が広報部門と法務の承認事項であり、購入の場にいなかった人たちの所管だからです。そして日本には、業種と従業員規模だけを書いた匿名事例という定着した形があります。だから1年目は名前のいらない材料で組み立て、そのうえで最初の一社に、適切な時期に、いちばん小さい依頼をします。

要点

他の市場では機能しているスライド

その資料は4つの市場で使われていて、実際に機能しています。4枚目はロゴの壁で、業種ごとに並び、隅には受注まで18か月かかった大手金融機関の名前があります。東京の会議室では、その資料は丁寧に見られたあと、何の反応も起こしません。

質疑の時間になって、情報システム部門の方が「日本での導入事例はありますか」と聞きます。こちらは最大の海外顧客の名前を挙げ、アジアでも使われていると添えます。相手は何かを書き留めて、もう一度、ほとんど同じ言葉で、しかし少しだけ違う形で聞きます。「日本国内で、同じ業種の事例はございますか」。

本社はこれを「証拠が足りないのだろう」と解釈して、すでに持っているものをさらに送ります。事例をあと2本、顧客インタビューの動画、アナリストの言及。どれも動きません。同じ質問が同じ形で戻ってきて、3回目を過ぎたあたりから、それが引き延ばしのように見えはじめます。実際には、具体的で、答えのある質問です。ただ、こちらが答えを持っていないだけです。

ここに書いた場面は、日本市場参入の仕事で繰り返し見てきたパターンの合成です。特定のクライアントや顧客の描写ではありません。またこの記事は調査データではなく、現場での観察を書いたものです。

絞り込みは1つではなく、3つ

まず質問を正確に受け取るところからです。「事例はありますか」と「日本国内の事例はありますか」は別の質問で、聞かれているのは後者だけです。

業種。同業の事例は、機能が足りることだけを示すのではありません。同じ監督官庁、同じ監査、同じ業界慣行を持つ会社がすでにこの判断をして、その後も問題なくやっている、という意味を持ちます。金融、医療、公共、輸出管理のかかる製造。これらの業種は、マーケティング上のセグメントではなく、確認担当者が説明責任を負っている規則そのものです。

規模。従業員200名の会社の経験は、2万名の会社の問いに答えません。権限設計、シングルサインオン、監査ログ、社内ヘルプデスクがどれだけ問い合わせを吸収することになるか、4月の異動で何が起きるか。どれも人数に比例しては増えず、確認担当者はそれを知っています。同程度の規模の事例は「運用上の問いにはすでに答えが出ている」という証拠になります。

国。海外の企業がいちばん受け入れにくいのがここで、内向きな理由に見えます。実際にはサポートの現実についての質問に近いものです。日本時間の午前10時に誰が答えるのか。契約書は日本語にできるのか。請求書は会計システムが受け付ける形で届くのか。国内の事例は「それを全部すでに試した会社があって、問題なかった」ということの省略表現です。

確認担当者が実際にしていること:判断を前例に変換する作業です。判断は、下した人が説明しなければなりません。前例は、引用するだけで済みます。合意が会議の中ではなく会議の前に起きるのと同じ仕組みです。

最初の日本の顧客が、社名を出させてくれない理由

素直な解決策を考えます。日本で1社受注し、きちんと成果を出し、ロゴの掲載をお願いする。受注し、成果も出て、窓口の方も本当に喜んでくださっている。それでも答えは「難しい」か、多くの場合は長く丁寧な沈黙で、それが実質的な不可になります。

背景はたいてい次の4つで、どれも不満ではありません。

買った人は、公開の権限を持っていません。選定した方が持っていたのは購買の権限です。海外ベンダーの宣伝に自社名が載ることは対外的な情報発信であり、通常は広報あるいはコーポレートコミュニケーションの所管で、法務の確認がつきます。どちらの部門も評価には関わっておらず、御社との関係もなく、許可して得るものもありません。

契約の既定は、そもそも逆を向いています。日本で最も参照される情報システム取引の標準契約は、IPA(情報処理推進機構)が公開している情報システム・モデル取引・契約書です。第二版のひな型では、秘密情報の取扱いを定めた条文が、秘密である旨を示して開示された情報を秘密情報と定義し、第三者への漏洩を禁じたうえで、本契約および個別契約の目的の範囲内でのみ使用すると定めています。宣伝は契約の目的ではありません。御社の契約書に何が書いてあっても、確認担当者の前提はここから始まります。実名の事例掲載は、当然に認められる権利ではなく、別途の書面による許諾です。

得るものが釣り合っていません。こちらは市場を開ける事例を得ます。相手が得るのは他社サイトに載る社名と、「最初に名前を出した会社」という位置づけです。あとで製品に何かあれば、その判断は公開された状態で相手の名前に紐づきます。断るのは合理的です。

断っても、相手は何も失いません。実名の推薦が当たり前の市場では、断ることが少し目立ちます。日本では業種と従業員数だけを示した匿名事例が普通に公開されているため、匿名での協力は「代わりの手段」ではなく、それ自体が完結した答えです。協力的でありながら名前を出さない、という選択が普通に取れます。

5つ目として、単純に時間の問題があります。許可が出る場合でも、独自の予定で動く部門を通るので、数週間かかるのが普通です。取締役会資料の2日前に頼めば、日程だけを理由に不可になります。

名前を出せない時期に、何を材料にするか

1年目はロゴを待つ期間ではありません。名前がなくても確認担当者が引用できる材料を積む期間です。

日本の形式で匿名事例を書く

こちらの標準形は、社名以外はすべて具体的、です。業種、おおよその従業員数、地域あるいは事業の種類、導入した部門、期間、導入前の状況、変えたこと、その後に測った数字。読み手が自社に当てはめられるだけの情報を出します。「大手企業様で大きな成果が出ました」は当てはめようがなく、何も出さないより印象が悪くなります。事例の中身が無いように読めるからです。

本文は日本語で書き、社名が入っていなくても顧客の確認を取ってから公開してください。記述だけで特定できることがあり、自社だと気づいた会社は、許可を求められなかったことをよく覚えています。

実際に出してよい数字だけを出す

国内の導入社数。国内で管理しているアカウント数。日本時間での対応時間と担当体制。最初の国内顧客が稼働した時期。地味ですが、確認できる種類の数字です。そこが要点で、どの数字も文字どおり事実で、いつ時点かを明記し、数え方を聞かれても説明できるものにしてください。盛った数字が1つセキュリティ確認の場で突かれると、その数字の束全体より高くつきます。

第三者の言及は、扱いに注意する

こちらが依頼していない言及のほうが、依頼した言及より価値があります。日本では、消費者向けの表示についてはこれが規制上の区別にもなっています。消費者庁は令和5年10月1日から、一般消費者が広告と判別できない広告を景品表示法違反として扱っており、その説明では、企業がインフルエンサー等の第三者に依頼・指示するものも広告に含まれること、規制の対象となるのは第三者ではなく商品・サービスを供給する事業者(広告主)であることが明記されています。この指定が対象とするのは一般消費者向けの表示なので、B2Bの提案資料がそのまま対象になるわけではありません。それでも判断の筋は変わりません。独立した言及に見えていたものが実は依頼されたものだった、と日本の確認担当者が気づいた場合、そこで伝わってしまった情報は、どんな事例でも取り返せません。

代わりになるものを使う

事例が担うはずの役割を、部分的に引き受けてくれるものがいくつかあります。会社が何者で、いつからあり、誰がやっているのかに答える日本語の会社情報ページ。価格より先に探されるページです。求められる前に用意しておくセキュリティ関連の書類。この確認は契約がまとまった後にExcelで届きます。国内のパートナー。相手の顧客リストが借りものの前例として働き、これが提携・流通ファーストがコールドの直販に勝つ理由のひとつです。そして、こちら側の個人の実績。法人としては新規参入でも、個人の経歴は証拠になります。

評価そのものに証拠を作らせる

日本の商談でいちばん役に立つ文書は、公開できない文書であることが多いものです。PoCは顧客側が書くレポートを生みます。顧客自身の数字が入っていて、社内を回ります。それが宣伝物になることはありません。それでも、その案件では最も強い証拠であり、次の社内推進者が「他にこれを作った部署はあるか」と聞く対象でもあります。

最初の一社への頼み方:時期・大きさ・言い方

実際に頼むとき、こちらが動かせる変数は依頼の中身です。多くの会社は、いちばん大きい依頼を、いちばん悪い時期に出しています。

  1. 顧客自身が測った結果が出てから頼む。稼働直後は避けます。何も証明されておらず、双方とも疲れている時期です。いちばん通るのは更新時期や社内レビューの前後で、顧客側が社内に費用を説明したばかりで、材料が手元にあります。
  2. 目的を果たす最小の段を頼む。ここには段があり、段ごとに承認が別です。業種と規模だけの匿名事例。同じ事例に役職名つきのコメントを添えたもの。公開はせず商談の場で口頭で社名を出す許可。実名入りの事例記事。サイトへのロゴ掲載。共同発表や登壇。多くの会社は5段目から入ります。1段目か2段目は数週間で通り、通らない5段目よりはるかに役に立ちます。
  3. 窓口の方には、判断ではなく所管を聞く。「社内でどなたの承認が必要で、その方には何をお渡しすればよいですか」と聞けば、相手が出せない答えを求める依頼が、相手が実行できる作業に変わります。
  4. 完成した原稿を、日本語で持っていく。編集できる形式で、掲載場所、掲載期間、そして求めがあれば取り下げる旨を明記して渡します。広報部門が既定で断る理由である「作業」と「不確実性」を、こちらが引き取ることになります。
  5. 値引き以外のものを差し出す。登壇の枠、共同執筆、ロードマップの先行共有、相手の広報が自社のDX事例として使える形の記事。ロゴと値引きを交換すると、好意が取引条件に変わり、最も断りやすい人たちの確認対象になります。
  6. 書面の許可より先に、絶対に出さない。社名も、特定できる程度に具体的な記述も、勉強会のスライドも。ここから戻すのはマーケティングの問題ではなく、契約の問題になります。

この記事が証拠になっていること、いないこと

日本の大企業のバイヤーが国内事例と海外事例をどう比べているかを測った統計を、一次情報として私は持っていません。ベンダーのアンケートを統計のように引くよりは、持っていないと書くほうを選びます。ここまで書いたのは日本市場参入の仕事での観察であり、そのように読んでいただくのが正確です。

裏が取れる部分は2つで、そこはご自身で確認できます。IPAの情報システム・モデル取引・契約書は、契約に基づいて開示された秘密情報の使用を契約の目的の範囲内に限ることを既定としています。だから実名の事例掲載は、当然の権利ではなく新たな許諾になります。そして消費者庁の指定により、令和5年10月1日から、広告と判別できない第三者への依頼・指示による表示の責任は広告主が負うとされています。誰かに好意的な言及を依頼する前に、知っておく価値のある区別です。

確認の仕方は簡単です。日本案件のうち最も長く開いているものを取り出して、「自社と同じような会社が、日本で、すでにこれを使っている」という材料を相手に渡したことがあるかを見てください。渡したものがロゴの壁だけなら、その案件は価格でも機能でも止まっていません。稟議を書く人に、安心して引用できるものを誰も渡していないから止まっています。

Japan Readiness Check では、日本語で出している資料を社内の確認担当者と同じ読み方で追い、先方の承認手続きが引用できるものを切らす地点をお見せします。

よくあるご質問

海外の導入ロゴをいくら見せても、日本の大企業に響きません。なぜですか

効いていないわけではなく、別の質問に答えているからです。海外のロゴは「実在する、顧客がいる会社である」ことを示します。それは前提であって、止まっている理由ではありません。社内で稟議を書く方が必要としているのは、この購入が「特別な判断」ではなく「普通の判断」だと示せる材料です。いちばん効くのは前例で、同じ業種・同じくらいの規模・日本国内ですでに使っている会社があることです。並んでいるロゴは、その確認担当者と同じ監督官庁も、同じ従業員数も、同じ社内システムも共有していません。だから前例として機能しません。

日本の顧客に満足していただいているのに、社名の公開だけは断られます。珍しいことですか

ほぼ既定の反応で、満足度とは関係がないことがほとんどです。導入を決めた方と、対外的な公開を許可できる方は普通は別です。ベンダーの宣伝に自社名が載るのは対外広報なので、広報部門の所管になり、多くの場合は法務の確認も入ります。どちらも選定には関わっておらず、御社との関係もなく、許可して得るものもありません。加えて、最初に名前を出す会社になるリスクは顧客側だけが負います。この段階で断られたことは、その案件が弱いという合図ではありません。

匿名の導入事例に意味はありますか

あります。日本では業種と規模だけを示した匿名事例が広く公開されており、隠している印象にはなりません。効く匿名事例の条件は、社名以外はすべて具体的であることです。業種、おおよその従業員数、導入した部門、期間、導入前の状況、変えたこと、変えた後に測った数字。読み手は「自社に当てはまるか」を確かめるために読みます。「大手企業様で大きな成果が出ました」は当てはめようがなく、何も出さないより印象が悪くなります。なお、社名が無くても記述だけで特定できることがあるため、本文は顧客に確認を取ってから出してください。

社名の使用許諾は、いつ頼むのが適切ですか

顧客自身が測った結果が出てからで、稼働開始の直後ではありません。いちばん通りやすいのは更新時期や社内レビューの前後です。その時期は顧客側が社内に費用を説明したばかりで、説明のための材料がすでに手元にあります。窓口の方には「判断してください」ではなく「社内でどなたの承認が必要で、何をお渡しすればよいですか」と聞いてください。そして数日ではなく数週間を見込んでください。広報部門には広報部門の予定があります。

「日本のバイヤーは国内事例を求める」という統計はありますか

一次情報として挙げられる統計を私は持っていないので、この記事では統計を出していません。ここに書いたのは日本市場参入の現場での観察であり、調査データとしてではなくそのように読んでいただきたい内容です。裏が取れる部分は2つあります。ひとつはIPA(情報処理推進機構)の情報システム・モデル取引・契約書で、秘密情報は契約の目的の範囲内でのみ使用すると定められています。もうひとつは消費者庁の指定で、令和5年10月1日から、一般消費者が広告と判別できない広告は景品表示法違反とされ、企業が第三者に依頼・指示した投稿もその広告に含まれ、責任は広告主側が負うとされています。