- フリーランス法とはどんな法律ですか
- 正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)で、2024年11月1日に施行されました。従業員を使わずに働く個人の事業者に業務を委託する事業者に対し、取引の適正化と就業環境の整備の両面からルールを定めています。
- 発注する側には何が求められますか
- すべての発注者に、取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。従業員を使用する発注者には、さらに受領から60日以内の支払、1か月以上の委託での7つの禁止行為の回避、募集情報の的確表示、ハラスメント対策、長期の委託を終えるときの事前予告などが加わります。
TL;DR
日本のフリーランスに発注するなら、業務内容・納期・報酬額・支払期日と、検収する場合は検査完了日を、発注そのものに書面かメッセージで書き込みます。従業員のいる会社なら、支払期日は成果物の受領から60日以内に設定し、後から報酬を減らしたり、受け取りを拒んだり、無償のやり直しを求めたりしないこと。日本に拠点のない企業への適用は、確認した公的情報では整理されていないため、本記事は一般的な情報として読み、具体的には日本の弁護士にご確認ください。
Key Takeaways
- 条件は最初に示す。これはすべての発注者の義務で、フリーランスが別のフリーランスに再発注する場合も含まれます。
- 支払の起算日は請求日ではなく受領日。従業員を使用する発注者は、受領から60日以内のできる限り短い期間で支払います。
- 1か月以上の委託では7つの行為が禁止。報酬の減額や、フリーランス側に責任のないやり直しの要求などです。
- 期間が長いほど義務が増える。6か月以上の継続的な委託を終える・更新しない場合は、30日前までの予告が必要です。
- 海外企業への適用は断定しない。本記事は法的助言ではありません。
誰を守り、誰に義務を課す法律か
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。2023年4月に成立し、2024年11月1日に施行されました。取引の適正化に関する部分は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境の整備に関する部分は厚生労働省が担当しています。
守られる側の「特定受託事業者」は、いわゆるフリーランスです。従業員を使用しない個人の事業者、または代表者1名のみで他に役員も従業員もいない法人がこれに当たります。公正取引委員会のQ&Aによれば、ここでいう従業員は、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上継続して雇用される見込みの人です。個人名で仕事を受けている翻訳者は典型的な対象で、節税のために作った一人法人も含まれます。
そのうえで、法律は発注者を二つに分けています。この区別が、この記事でいちばん大事な点です。
- フリーランスに業務委託するすべての事業者(業務委託事業者)には、発注時に取引条件を明示する義務があります。
- 従業員を使用する事業者、または役員が2人以上いる法人(特定業務委託事業者)には、以下で説明する義務がひととおりかかります。
小規模なSaaSチームも含め、この記事を読んでいる企業の多くは後者に当たるはずです。
義務1:発注するときに条件を示す
発注者は、取引条件を書面または電磁的方法でフリーランスに示さなければなりません。公正取引委員会のQ&Aが挙げている項目は次のとおりです。
- 発注者とフリーランス双方の名称
- 業務委託をした日
- 給付・役務の内容
- 給付・役務提供の期日
- 給付・役務提供の場所
- 報酬の額と支払期日
- 検査をする場合は、検査を完了する期日
- 現金以外で支払う場合は、支払方法に関する事項
電子メールのほか、チャットツール、SMS、SNSやウェブサイトのメッセージ機能での送信も認められています。ローカライズの発注はチャットのスレッドで済ませることが多いので、これは助かります。ただ、抜けが出るのもそこです。「オンボーディングの文言、金曜までにお願いできますか。いつもの単価で」はメッセージではあっても、発注日も、はっきりした金額も、支払期日も、チェックの有無も書かれていません。クラウドサービスやウェブ上で条件を送る場合は、スクリーンショットで保存しておくことも勧められています。
義務2:受け取ってから60日以内に払う
従業員を使用する発注者は、成果物を受け取った日から60日以内の、できる限り短い期間で支払期日を定めて支払う必要があります。起算日はファイルを受け取った日です。フリーランスが請求書を出した日でも、社内のレビュー担当がチェックを終えた日でもありません。支払期日を定めなかった場合や、60日を超える日を定めた場合は、受領日、または受領から60日を経過した日が支払期日とみなされます。
月末締めの運用も認められていますが、月初に受け取った分も60日以内に払えるようにしておく必要があります。本社の購買システムでよく見る「請求書受領後90日払い」のような固定サイトをそのまま当てはめると、気づかないうちにこのルールから外れます。
再委託には別の扱いがあります。自社が元の発注者から受けた仕事をフリーランスに出す場合、発注時に再委託であること、元委託者の名称、元委託の支払期日を示していれば、元委託の支払期日から30日以内のできる限り短い期間で支払期日を定めることができます。
使ってはいけない7つの行為
1か月以上の業務委託では、従業員を使用する発注者は次の行為をしてはいけません。
- 注文どおりに納品された成果物の受け取りを拒むこと(受領拒否)
- 決めた報酬を後から減らすこと(報酬の減額)
- フリーランス側に責任がないのに、受け取った成果物を返すこと(返品)
- 同種の仕事の相場に比べて著しく低い報酬を一方的に決めること(買いたたき)
- 自社の商品やサービスの購入・利用を強いること(購入・利用強制)
- 正当な理由なく金銭や役務などの提供を求めること(不当な経済上の利益の提供要請)
- フリーランス側に責任がないのに、費用を負担させずに内容を変えたりやり直させたりすること(不当な給付内容の変更・やり直し)
ローカライズのチームが読み返すべきなのは最後の項目です。納品後にプロダクト側が原文を変えた場合、それは修正ではなく新しい仕事です。元の報酬のまま対応を求めるのは、この法律が想定している典型的な場面に近いと言えます。
規模と期間で変わる義務
従業員を使用する発注者には、厚生労働省が所管する、労働法に近い義務もあります。
- 募集情報の的確な表示。求人サイトやクラウドソーシングでフリーランスを募集するとき、虚偽や誤解を招く表示をせず、内容を正確かつ最新に保つ必要があります。
- ハラスメント対策。取引するフリーランスに対するハラスメントを防ぎ、相談に応じるための体制を整える義務があります。
- 妊娠・出産・育児・介護への配慮。6か月以上の業務委託では、申出に応じて、仕事と両立できるよう必要な配慮をしなければなりません。6か月未満では努力義務です。
- 長期の委託を終えるときの予告。6か月以上の継続的な業務委託を解除する、または更新しない場合は、例外に当たらない限り、少なくとも30日前までに書面や電子メール等で予告し、求められれば理由を開示する必要があります。
日本に拠点のない企業にも適用されるのか
海外の発注者がまず知りたい点だと思いますが、ここで答えを出すことはできません。今回確認した公正取引委員会のQ&Aは、海外の発注者と日本国内のフリーランスとの取引を扱っていません。適用されるかどうかは、事業の実態、日本法人の有無、業務がどこで行われるかといった事情によって変わりうるものです。
実務上の考え方はもう少し単純です。求められている義務は重いものではなく、日本のフリーランスも発注者がこれを守ることを期待するようになっています。はっきりした書面の発注、受領から60日以内の支払期日、後から変えない報酬。どれも丁寧な発注者なら当然やっていることです。日本法人が発注している場合は、なおさら沿っておく理由があります。それ以上の判断は、日本の弁護士にご相談ください。本記事は法的助言ではありません。
本記事は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が公開している情報をもとに、2026年10月時点でまとめた一般的な情報です。法的助言ではありません。最新の公的情報を確認し、個別の事情については専門家にご相談ください。
ローカライズの発注書にどう落とすか
実務のほとんどは発注書のテンプレートで片づきます。日本の翻訳者・チェッカー・ライターに直接発注しているなら、次の三つでかなりの部分をカバーできます。
1. 発注書を日本語、少なくとも日英併記にする
フリーランスは、自信を持って読めない条件を頼りにはできません。英語だけの発注書に機械翻訳の日本語を添えたものは、範囲や支払をめぐる行き違いの出発点になります。ネイティブが確認した日英併記のテンプレートなら、たとえば次のようになります。
2. 検収日を書面に入れる
ローカライズの成果物は、受け入れる前にレビューするのが普通です。支払が遅れるのもこのレビューの段階です。レビューをいつまでに終えるかを書いておけば、フリーランスは成果物がいつ受け入れられるかが分かり、レビューが際限のない保留になるのも防げます。ただし、60日の起算は受領日であって、レビュー完了日ではない点に注意してください。
3. 原文の変更は追加発注として扱う
納品後に原文が変わった場合の費用の扱いを事前に決め、変更分は新しい発注として出します。フリーランスを無償のやり直しから守り、発注側も「元の報酬に何が含まれていたか」という争いを避けられます。
依頼書、スタイルガイド、契約終了の予告も同じです。どれも日本のフリーランスが日本語で読む文書で、その言葉選びによって、法務が英語で承認した条件が日本語でも同じ意味になるかどうかが決まります。取引先の会社そのものを確認する場面については、反社会的勢力のチェックを扱った記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
法律上の「フリーランス」とは誰のことですか
従業員を使用しない個人の事業者、または代表者1名のみで他に役員も従業員もいない法人です。ここでいう従業員は、週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる人を指します。個人名で仕事を受けている翻訳者が典型例です。
Slackやメールのメッセージで条件を伝えても足りますか
公正取引委員会のQ&Aでは、電子メール、チャットツール、SMS、SNSやウェブサイトのメッセージ機能による送信も電磁的方法に当たるとされています。送った内容は保存かスクリーンショットで残し、金額だけでなく必要な項目がすべて入っているかを確認してください。
60日はいつから数えますか
発注者が成果物を受け取った日、役務の場合は提供を受けた日からです。支払期日はその60日以内で、できる限り短く定めます。月末締めの運用も認められていますが、受領日から60日以内に支払うことが前提です。
日本に拠点のない海外企業にも適用されますか
確認した公的なQ&Aはこの点を扱っておらず、本記事では判断しません。日本在住の個人に発注している場合は、日本の弁護士にご相談ください。条件そのものは合理的で、日本のフリーランスも期待している内容のため、適用の有無にかかわらず沿った運用を選ぶ海外企業もあります。
この記事は法的助言ですか
いいえ。公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が公開している情報を2026年10月時点でまとめたものです。最新の公的情報を確認し、個別の事情については専門家の助言を受けてください。