Quick Answers
日本の会社は、押印しないと契約が有効にならないのですか
一般には、そうではありません。内閣府・法務省・経済産業省の「押印についてのQ&A」(2020年)は、契約は当事者の意思の合致で成立し、特段の定めがある場合を除いて書面や押印は必要な要件ではないとしています。押印は契約を証明する手段の一つです。
DocuSignのような電子署名サービスは、日本で通用しますか
日本には電子署名法があり、2020年の政府Q&Aは、利用者の指示を受けて事業者が署名する方式のサービスも、条件を満たせば同法上の電子署名に当たり得ると整理しています。真正に成立したと推定される効果(3条)まで得られるかは、二要素認証など本人確認の固さによります。

TL;DR

法務から押印を求められたら、反論する前に「何のために必要か」を確かめます。民間の契約の多くは法律上押印を必要とせず、求められる理由は社内規程と証拠の確保であることがほとんどです。本人確認を固めた電子契約を提案し、電子で締結すれば一般に印紙が不要とされることを伝えたうえで、代表者印が必要な顧客には書面の道も用意しておきます。個別の契約についての法的な結論は、日本の弁護士に委ねます。

Key Takeaways

質問の裏にある本当の質問

「押印はどこにすればよいですか」は、日本の取引の最後に海外ベンダーが受け取るメッセージのなかでも、特によくあるものです。抵抗のサインに聞こえるかもしれませんが、多くの場合は、会社のルールどおりに契約書を処理しなければならない担当者からの、手続きの質問です。

まず法律の整理から確認します。2020年6月、内閣府・法務省・経済産業省は「押印についてのQ&A」を公表しました。その問1は、私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成やその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き必要な要件とはされていない、としています。押印がないことを理由に契約が無効になるわけではありません(押印についてのQ&A)。同じQ&Aは、押印の意味を証拠の面から説明しています。民事訴訟法では、本人の署名または押印がある私文書は真正に成立したものと推定され、メールのやりとりなど他の手段でも契約の成立を示すことはできる、という整理です。

つまり法務が押印を求めるとき、求めているのはたいてい次の3つのどれかです。社内の決裁ルールを守ること、あとで証明できる書類を残すこと、そして単に見慣れた形式であること。答え方はそれぞれ違い、どれに対しても「日本は電子署名を受け入れていない」は当てはまりません。

電子署名について、日本の法律が定めていること

電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号、電子署名法)は、2条で電子署名を、電磁的記録に記録できる情報について行われる措置で、その情報を誰が作成したかを示し、改変されていないかを確認できるもの、と定義しています。そのうえで3条は、本人による電子署名(必要な符号や物件を適正に管理することで本人だけが行えるものに限る)が付された電磁的記録は、真正に成立したものと推定する、と定めています(e-Gov法令検索、デジタル庁の解説)。

3条が何をしているかに注意してください。契約を有効にするのは合意であって、3条ではありません。3条は、争いになったときに役立つ推定を与えるもので、紙の書類における押印の推定に対応するものです。

海外で広く使われている電子署名サービスの多くは、署名者が個別に証明書を持つのではなく、利用者の指示を受けたサービス事業者が自らの鍵で署名する仕組みです。日本ではこれを「立会人型」(事業者署名型)と呼ぶことがあります。2020年、総務省・法務省・経済産業省はこの方式について2つのQ&Aを出しました。2条関係のQ&Aは、措置が利用者の意思のみに基づき、事業者の意思が介在することなく行われたと認められるなら、このようなサービスも電子署名に当たり得るとしています(2条関係Q&A、2020年7月)。3条関係のQ&Aは、推定が働くには本人確認について十分な水準の固有性が必要だとし、その例として、登録されたメールアドレスとログインパスワードに加えて、SMSなどで送るワンタイム・パスワードで認証する二要素認証を挙げています(3条関係Q&A、2020年9月)。

ベンダーにとっての要点は、Q&Aがサービスを個別に評価する立場をとっていることです。「このツールは日本で完全な法的効力がある」とは約束しないでください。代わりに、署名フローで署名者をどう確認しているかを説明します。「SMSによる二要素認証」と書けば、日本の法務は政府自身が挙げた例だとすぐに分かります。

印紙税は、電子契約を選ぶ理由になる

印紙税法は一定の文書に課税しており、紙の契約書の多くがこれに当たります。納税は、紙の原本に収入印紙を貼る形で行います(印紙税法)。課税の対象になるのは文書を「作成」したときで、国税庁の基本通達では、契約書は相手方に交付したときに作成したものと扱われます。

注文請書をPDFなどで送信する場合についての文書回答事例で、課税当局は、電磁的記録で送信するだけなら課税文書の作成には当たらず、印紙税はかからないとの見解を示しています。ただし、送信後に印刷した紙を相手方に交付すれば、その紙が課税文書になり得ます(国税庁 文書回答事例)。これは法律に電子契約は非課税と明記されているのではなく、「作成」の解釈によるものです。税額は文書の種類と契約金額によって変わります。

顧客にとっては実際のコスト削減になり得るため、調達や経理が電子契約を歓迎する理由にもなります。注意点は2つです。その顧客の契約でいくら節約できるかを断言しないこと。そして電子で締結するつもりなら、「控えとして」署名済みの紙を郵送しないことです。

中堅以上の日本企業の多くは、すでに電子で契約している

日本企業は電子で契約できない、という見方はもう古くなっています。JIPDECがITRと共同で2026年1月に行った「企業IT利活用動向調査2026」(従業員50名以上の国内企業、有効回答1,107社)では、電子契約の利用率が初めて8割を超えました。電子契約を利用している企業のうち、立会人型と当事者型の併用が37.3%、当事者型のみが26.6%、立会人型のみが21.3%で、何らかの電子署名を使っている企業は85.2%でした(JIPDEC/ITR 2026)。

ただし「電子契約を利用している」は、すべての契約が電子化されたという意味ではありません。秘密保持契約は電子で結び、金額の大きい契約や長期の契約は押印の決裁を通す、という会社もあります。下の返し方が、決めつけずに確認する形になっているのはそのためです。

よく出てくる印鑑の種類

日本の会社は、法務局に代表者の印鑑(代表者印、いわゆる会社の実印)を届け出ていることが多く、法務局はその印鑑について印鑑証明書を発行します。2021年2月15日からは、登記をオンラインで申請する会社については印鑑の提出が任意になりましたが、書面で申請する会社や印鑑証明書が必要な会社は引き続き届け出ています(法務省)。重要な契約では、代表者印と印鑑証明書をセットで求める顧客もいます。請求書や見積書に押す角印は、登記制度ではなく商慣行によるものです。

海外側はどうでしょうか。日本には1899年から、法令で署名・捺印が求められる場面でも外国人は署名で足り、捺印の代わりに署名してよいとする法律があります(外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律)。もともと民間の契約は押印を要件としていないことと合わせれば、海外側の署名者がハンコを用意する必要はありません。紙に手書きで署名するのも、電子署名するのも、ごく普通のことです。

説明用の例(実在の顧客ではありません)

顧客の法務から:契約書の押印欄はどちらになりますでしょうか。弊社規程上、代表者印での締結が必要です。

修正前(本社の定型文を訳したもの)

当社の電子署名は世界中で法的拘束力が認められています。押印は不要ですので、送付したリンクから電子署名をお願いします。

修正後

ご確認ありがとうございます。当社では電子契約サービスでの締結を標準としており、署名時にはメールアドレスとパスワードに加えてSMSの確認コードで本人確認を行います。電子契約の場合、書面の交付がないため一般に印紙は不要とされています。
御社規程で書面と代表者印による締結が必要な場合は、書面でも対応いたします。その際、当社側は代表者の署名で締結いたします。どちらの方式がよろしいか、ご教示いただけますと幸いです。

ポイント:修正前は顧客の規程に反論し、法務が受け入れられない「世界中で法的拘束力」という主張をしています。修正後は、署名者の確認方法を説明し、印紙の点を利点として添え、規程が求める書面の道も示したうえで、相手に選んでもらう形にしています。

返し方の手順

押印が何のためかを聞く

まずひとつだけ確かめます。押印は社内規程で必須なのか、それとも普段の形式なのか。規程であれば、その規程が電子契約を認めているかも聞きます。2020年以降に電子契約の手続きを加えた会社は多いものの、誰かが尋ねない限り紙が既定のまま、ということもよくあります。

署名フローを相手の言葉で説明する

サービス名、立会人型か当事者型か、署名者をどう認証するかを伝えます。SMSや認証アプリによる二要素認証を有効にできるなら、日本の契約では有効にし、そのことを書き添えます。「どこでも法的拘束力がある」とは書かず、結論は顧客側の弁護士に委ねます。

書面の道も用意しておく

金額の大きい契約や長期の契約では、代表者印を押した書面が必要な顧客もいます。日本語版の契約書に、双方の署名・押印欄(顧客側は押印欄、当社側は署名欄)を用意しておきます。印鑑証明書を求められた場合、それは顧客側が用意する書類です。なお書面で締結すると印紙税の対象になり得るので、どちらが負担するかは顧客と取り決めておきます。

電子で結んだら、紙に戻さない

電子で締結したなら、そのまま電子で保管します。あとから署名済みの紙を送ると、電子契約で避けたはずの紙の文書を作ることになりかねません。

最終的な法的判断は日本の弁護士に

ここまでの内容は一般的な仕組みの説明です。契約の種類によっては書面や形式について別の定めがあり、顧客の社内規程も優先されます。大きな取引や特殊な契約では、日本の弁護士にその契約での進め方を確認してください。

契約書を送る前のチェックリスト

  1. 顧客の規程が電子契約を認めているか、どの種類の契約で認めているかを確認した。
  2. 日本の署名者には二要素認証つきの署名フローを使い、返信でもそのことを伝えた。
  3. 契約書に日本語版がある。両方の言語版に署名する場合は、どちらを正とするかの条項もある。
  4. 顧客用の押印欄がある書面版を用意した(規程で必要な場合に備えて)。
  5. 当社側の誰も、印紙税の節約額や「日本での法的効力」を約束していない。手続きを説明し、結論は専門家に委ねている。
  6. 電子で署名したあとに、印刷した控えを送っていない(双方がそのつもりの場合を除く)。
  7. 法務への返信を、日本語が母語の人が確認した。訳した反論ではなく、役に立つ回答として読める。

出典

よくある質問

書面での契約を断ってもよいですか

電子契約が標準だと伝えることはできますが、顧客の規程が代表者印を押した書面を求めている場合、断ると取引が止まるだけになりがちです。まず電子契約を提案し、書面版も用意しておくのが現実的です。

海外側の署名者も、日本の印鑑を用意する必要がありますか

必要ありません。民間の契約は法律上押印を要件としておらず、日本の法律は古くから、外国人が押印の代わりに署名することを認めています。紙への手書き署名でも電子署名でもかまいません。

電子契約なら、どんな場合でも印紙税はかかりませんか

自動的にそうなるわけではありません。課税当局は電磁的記録で送信した契約を課税文書の作成に当たらないと扱っていますが、印刷した紙を相手に交付すると課税対象になり得ます。個別の契約での扱いは税理士に確認してください。

日本の顧客には、どの方式の電子署名を使うべきですか

日本では立会人型も当事者型も使われています。立会人型のサービスを使う場合は二要素認証を有効にしてください。2020年の政府Q&Aが、十分な本人確認の例として挙げている方法です。