海外のSaaS企業が日本市場で失敗するのは、ひとつの悪訳のせいではありません。原因は小さな判断の積み重ねです。硬すぎるボタンラベル、翻訳されていないツールチップ。どれも単体なら許容範囲に見えます。しかし重なると、日本のエンタープライズ購買担当者はすぐに感じ取ります。「このプロダクトは翻訳されたものであって、日本向けにつくられていない」と。

数十の海外SaaS製品の日本語ローカライズをレビューしてきましたが、同じ10のミスを何度も目にします。オンボーディングフロー、料金ページ、ヘルプセンター、アプリ内UIのいたるところに現れます。どれもプロダクトの作り直しは要りません。しかし放置すれば、トライアルの申し込みやエンタープライズとしての信頼、コンバージョンが少しずつ損なわれていきます。

実際のQAプロジェクトのBefore/Afterを添えて、特に影響の大きい10項目を紹介します。

ミス1 — ビジネス文書のように翻訳されたCTA

❌ 修正前
営業部にご連絡を
「Contact Sales」の直訳——ビジネス文書の書き出しのように読める
✅ 修正後
営業に問い合わせる
動詞先行の表現でB2B SaaSの標準スタイルに合っている

機械翻訳の限界が最もはっきり出るのが、ボタンの文言です。英語のCTAは「Contact Sales」「Get Started」「Book a Demo」のような短い動詞句です。これを直訳すると、どれも実際の日本のSaaS製品では使われない硬い名詞句になってしまいます。ボタンは、ユーザーが取るアクションとして読めなければならず、丁寧なお願いとして読まれてはいけません。

この考え方は、プロダクト内のすべてのCTAに当てはまります。「Get Started」は「始める」が自然であり、「はじめましょう」ではありません。「Book a Demo」は「デモを予約」であり、「デモのご予約を承ります」ではありません。個々の訳語選びと同じくらい大切なのが、すべてのボタンで文法の型をそろえることです。

ミス2 — 同じ機能に3つの異なる名前

❌ 修正前
ダッシュボード / 管理画面 / コントロールパネル
同じ画面がUI・ヘルプセンター・料金ページで異なる名前になっている
✅ 修正後
ダッシュボード
ひとつの用語をどこでも一貫して使用

用語のばらつきは、最もよく見つかる問題です。同時に、訓練された目がなければ最も気づきにくい問題でもあります。UI、ヘルプセンター、マーケティングサイトを、別々の人やツールで、あるいは同じツールでも別の時期に翻訳すると起こります。それぞれの訳は単独なら筋が通っています。しかし並べて見ると、日本語ユーザーは3つの別々のプロダクトを使っているように感じます。

QAメモ:この問題は用語集を作れば根本から解決します。製品の主要な30〜50の用語について承認済みの日本語訳をひとつずつ決めておけば、以降の翻訳は人手でもAIでも、すべてそれを基準にできます。

ミス3 — 日本語ページに英語文字列が残っている

❌ 修正前
What's included
日本語ページにセクション見出しが英語のまま残っている
✅ 修正後
含まれる機能
完全にローカライズされ、読者が言語を切り替える必要がない

英語が訳されずに残るのは、翻訳者の目に入らない場所です。空の状態(エンプティステート)、ツールチップ、エラートースト、メールテンプレート、別ファイルから引いてきたセクション見出しなどです。日本のエンタープライズの購買担当者にとって、言語が混ざったコンテンツはローカライズが終わっていないことのはっきりした証拠です。ローカライズが未完成なら、ほかにも未完成なところがあるのではないかと疑われます。

ミス4 — 丁寧レベルの不統一

❌ 修正前
ご利用ください / 利用する / 設定しろ
丁寧語・普通体・命令形が画面をまたいで混在
✅ 修正後
ご利用ください / 設定してください
ひとつの丁寧レベルをプロダクト全体に一貫して適用

日本語には複数の丁寧さのレベルがあり、SaaS製品では丁寧体か普通体かを選べます。どちらを選んでも筋は通ります。ミスは、間違ったレベルを選ぶことではなく、そろっていないことです。あるページでは丁寧に語りかけ、次のページでは命令口調になると、そのプロダクトは、互いに話し合わなかった委員会が部品を寄せ集めたもののように感じられます。

不統一が入り込むのは、誰も明示的に決めていないからです。ある翻訳者は敬語を基本にし、別の翻訳者は普通体を基本にします。AIツールは原文の文の構造から見当を付けて選びます。直し方は、何十人もの手による場当たり的な判断に任せず、丁寧さのレベルを一度決めて文書にし、ルールとして適用することです。

ミス5 — 冗長な二重表現

❌ 修正前
53+以上 / 約10分ほど
「+」と「以上」はどちらも「以上」の意味、「約」と「ほど」はどちらも「だいたい」の意味
✅ 修正後
53以上 / 約10分
すっきりした標準的な日本語——修飾語はひとつ

AI翻訳は原文の要素をすべて残そうとして日本語の対応表現を付け足すため、修飾語が二重になりがちです。日本語ネイティブの読者はすぐに気づきます。小さな問題ですが、積み重なります。冗長さは、機械が生成したテキストだと最も早く見抜かれる手がかりのひとつです。

ミス6 — 決済用語の混用

❌ 修正前
支払い過程
教科書の定義のように読める。プロダクト用語としては不自然
✅ 修正後
決済フロー
日本のFinTechにおける標準用語

英語では「payment」一語ですべてをまかなえます。しかし日本語の「決済」と「支払い」は入れ替えられません。「決済」は取引の決済プロセスを、「支払い」は支払う行為を指します。チェックアウトフローや請求画面で使い分けを誤るのは、自社プロダクトが日本のFinTech市場を理解していないと知らせる、最も手っ取り早い方法のひとつです。

ミス7 — カタカナで表記すべき語の過剰翻訳

❌ 修正前
登入 / 上載
「Login」と「upload」が見慣れない漢字に置き換えられている
✅ 修正後
ログイン / アップロード
日本語ユーザーが既に慣れている定着した外来語

これはミス3と逆向きの失敗です。英語の用語の中には、日本語として定着しているものがあります。ログイン、アップロード、ダウンロード、アカウントなどです。これらを「より完全に」珍しい漢字の熟語に置き換えても、プロダクトがよりローカルに感じられるわけではありません。別の形で外国のものっぽく感じられるだけです。よいローカライズは、どの語をそのまま残すべきかを知っています。

判断の基準はシンプルです。その業界の日本人プロフェッショナルが、自分の文書やメールで英語の外来語をそのまま書いているなら、そのまま残してください。翻訳で持ち込んだ漢字熟語を、ネイティブスピーカーが一瞬立ち止まって読み解かなければならないなら、それは過剰翻訳です。

ミス8 — 欧米式の句読点と表記

❌ 修正前
設定を保存しました! "アカウント"を確認
半角カンマ、感嘆符、ストレートクォートが英語からそのまま引き継がれている
✅ 修正後
設定を保存しました。「アカウント」を確認
全角の。と「」を使用、感嘆符なし

日本語には独自の句読点の決まりがあります。全角の句点「。」と読点「、」、引用にはかぎ括弧「」を使い、プロ向けのUIでは感嘆符を避ける傾向があります。英語の句読点をそのまま持ち込むと、日本語で仕事をしている人が書いた文章ではないことが、さりげなく、しかし常に伝わってしまいます。

ミス9 — UIからはみ出す日本語テキスト

❌ 修正前
詳細設定を確認す…
レイアウトが英語の文字列長を前提につくられているため、ボタンラベルが切り詰められている
✅ 修正後
詳細設定
既存コンポーネントに収まる簡潔なラベルを選択

日本語の文字列は、英語と比べて予測できない形で伸び縮みします。訳が完全に自然でも、UIを壊すことがあります。ボタンの文字が切れる、メニュー項目がはみ出す、ラベルが2行に折り返す、といった具合です。テキスト自体は正しくても、これはローカライズのミスです。購買担当者が評価するのは個々の文字列ではなく、ユーザー体験全体だからです。

たいていの場合、解決策はボタンを長くすることではありません。翻訳を始める前に、UIコンポーネントごとの文字数制限を決めておく「ローカライズを意識した設計仕様」です。そうすれば、日本語のコピーライターは実際の制約の中で書けます。

ミス10 — 直訳されたエラーメッセージ

❌ 修正前
何かがうまくいきませんでした
「Something went wrong」の直訳——曖昧でやや不安を煽る
✅ 修正後
エラーが発生しました。お手数ですが、もう一度お試しください。
何が起きたか・次に何をすべきかを冷静なトーンで伝えている

エラーメッセージは信頼が最も傷つきやすい場所で、直訳の害も最も大きくなります。くだけた英語のエラー文をそのまま日本語にすると、曖昧な、あるいは不安を煽る表現になります。きちんとローカライズされたエラーメッセージは、何が起きたかを述べ、次に何をすればよいかを伝え、それを控えめなトーンで行います。特にFinTechでは、支払いの途中で不安を煽るエラーメッセージが出ると、そのままセッションが終わってしまうことがあります。

10項目の根底にあるパターン

このリストのミスには、すべて同じ根本原因があります。プロダクトを言語としてはローカライズしたものの、体験としてはレビューしていないことです。言葉は翻訳されましたが、ユーザー体験は確認されませんでした。

日本語のローカライズQAレビューは、校正とは違います。日本の購買担当者と同じ目線で、実際のフローをたどりながら、3つの問いに答える形でプロダクトを評価します:

  1. 日本のプロダクトとして読めるか?(文体、用語、句読点、自然な言い回し)
  2. プロダクト全体で一貫しているか?(すべての画面にわたって同じ用語・同じトーン・同じ規則)
  3. 体験として機能しているか?(テキストがUIに収まる、エラー状態が冷静、英語が残っていない)

この10項目のミスを直せば、日本語プロダクトは「翻訳されたもの」というシグナルを発するのをやめ、「日本向けにつくられた」というシグナルを発するようになります。多くの場合、プロダクトの根本的な変更は要らず、日本語の訪問者からのコンバージョンも計測できる形で上がります。

次のステップ

上記10項目のミスが、いまのご自身の日本語サイトにどれだけあるか知りたい場合は、日本語ウェブサイトミニ診断をご利用ください。1ページを上記のすべての観点からレビューし、スコア付きのQAレポートを、修正前後の比較と優先度付きのアクションリストとあわせて3〜5営業日以内にお届けします。